カテゴリ:不動産売却について / 投稿日付:2025/09/13 16:08
近年、日本人の平均寿命が伸びた要因として、医療技術の進歩、食生活の変化、そして公衆衛生の改善などが挙げられています。
厚生労働省が公開している国際的な平均寿命比較においても、日本は高い水準にあることが分かります。
このように、平均寿命の延伸は歓迎すべき結果であり、長寿命社会の実現に向けた成果と言えるでしょう。

しかし、その一方で高齢化社会に伴う問題も顕在化しています。
特に認知症患者の増加は、社会における深刻な課題となっています。
認知症の有病率は年齢が高くなるにつれて急峻に高まることが知られており、厚生労働科学研究費補助金事業や老人保健健康増進等事業を通じた研究が進んでいます。
例えば、九州大学が実施した2022~2023年の「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」では、年齢階級別に認知症有病率が増加するデータが明確に示されています。

さらに、国立社会保障・人口問題研究所が算出した将来推計人口を用いた性年齢階級別の認知症および軽度認知症の推計結果では、2050年には認知症患者が586.6万人、軽度認知症患者は631.2万人に達する見込みです。
2050年の推定人口は約9,515万人、そのうち約3,768万人は65歳以上です。
この中で、認知症あるいは軽度認知症の有病者は約1218万人と推定されています。
つまり高齢者の3人に1人は認知症あるいは軽度認知症を患っている可能性があるのです。

こうした状況の中で、不動産取引における課題も浮き彫りになっています。
特に、認知症の発症は不動産売却に大きな影響を及ぼしますから、実際に苦慮されている方も多いのではないでしょうか。
そもそも、不動産を売却するのは所有者本人の意思確認が不可欠です。
しかしながら、認知症の進行により本人の事理弁識能力が欠ける状態となるため、自己の行為が及ぼす影響を理解できなくなります。
リースバックではないにも拘らず、売却した後も居住を続けられると誤解している高齢者は珍しくありません。
いくら懸命に説明をしても、話がすれ違うことがあるのです。
このような状態では受任できません。
日本では、60歳以上の持ち家率が8割を超えており、換金性のある不動産は個人にとって大きな財産です。
それだけに売買時には所有者の意思確認が不可欠とされますが、認知症を発症し事理弁識能力が欠ける状態では、持ち家の処分が困難となります。
実際に、親族から「施設の入居費を捻出するため、親が所有する自宅を売りたい」との相談を受けることがよくあります。
しかし、所有者本人にヒアリングして認知機能に問題があると判断される場合には、「成年後見制度の利用をご検討ください」とお伝えせざるを得ません。
さらに、家庭裁判所へ成年後見制度の申立てを行っても、親族が後見人に選任される保証はありません。
また、不動産の処分には家庭裁判所の承認が必要であり、承認を得ること自体が必ずしも容易ではないことを理解しておくべきです。
本稿では、成年後見制度の限界を含め、認知症を発症した際に不動産処分がいかに困難となるかについて、実際の事例を基に解説します。
成年後見制度を利用して所有権を移転したい
最近、「成年後見制度を申立て、自分に所有権を移してから不動産を売却したい」との相談を受けました。
しかし、この事例は成年後見制度の趣旨を誤解しているものです。
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な人々の権利や財産を保護するために設けられた制度です。
後見人は、被成年後見人の利益を最優先に、本人に代わって契約行為や財産の管理を行う権限を持ち、また、本人が誤って行った行為を取消す権限も有します。
しかし、この制度の根本的な理念は、本人の意志や自己決定権をも尊重することにあります。
そのため、後見人が恣意的な目的で財産を処分できないように制度設計がなされています。
この観点から言えば、先に述べた「自己に所有権を移して」との目的が何を意図しているのかは明確ではありませんが、後見人が被後見人の財産を不正に取得し、利益を得る可能性がある以上、それは利益相反に該当します。
家庭裁判所がこのような申立てを認めることは考えにくいのですが、このようなケースに類似した相談は少なくありません。
全てではありませんが、多くの場合、被後見人の財産を不正に利用しようという意図が見え隠れしています。
時には、認知機能が低下する前に本人が書いたと主張する委任状が提示され、「法的に問題はない」と主張されることもあります。しかし、このような主張には法的に重大な問題があります。
確かに、不動産売買において代理人を立てることは法的には可能です。
しかし、不動産取引は高額かつ法的拘束力が強いため、代理人に与える権限や手続きには厳格なルールが設けられています。
特に、所有者の認知機能が低下している場合には、以下の法的要件を具備した確実性が求められます。

上記の要件を具備していても、所有者本人の意志確認を省略することはできません。
その際には、本人の意志決定能力の程度について、厚生労働省による「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」に基づき、以下の点を確認する必要があります。
●自分のこととして認識しているか(認識する能力)
●論理的な判断ができるか(論理的に考える力)
●自らの意志を表明できるか(選択を表明できる力)
これらを評価判定した結果、判断能力が著しく不十分であり財産管理や契約行為を行えないと判断される場合には、委任状による取引に応じるべきではなく、後見制度の利用を推奨すべきと考えます。
~②に続く~
株式会社MATR
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